腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)

症状
間欠性跛行(かんけつせいはこう)
腰部・殿部・大腿部・下肢の不快感や疼痛やしびれがおこります。数分間立っていたり、100~200mほど歩くと、腰痛や下肢の痛みやしびれが出現し、一休みしないと歩行ができなくなる状態をいいます。間欠性跛行には大きく神経性間欠性跛行と血管性間欠性跛行があります。血管性は下肢の動脈硬化による筋肉への血行障害です。腰部脊柱管狭窄症は神経性間欠性跛行が出現します。腰部脊柱管狭窄症では一般的に坐位や腰をかがめたりすると改善します。立っているだけで症状が出現する場合は腰部脊柱管狭窄症と診断できます。また日によって歩行距離が変わり、調子のいいときと悪いときがありますが、次第に歩行距離が短くなり、日常生活が困難になります。

膀胱直腸障害
頻尿、排尿困難など男性であれば前立腺肥大症、女性であれば老化による尿失禁とよく間違えられます。排尿の勢いがなくなったり、排尿が分からなくなることもあります。便秘などの症状になることもあります。最終的には下肢の麻痺や排尿困難となり、日常生活が不可能になってしまいます。
腰部脊柱管狭窄症患者のMRI

治療
腰部脊柱管狭窄症は加齢に伴う疾患です。高齢者になると成人病(脳梗塞、狭心症、糖尿病、高脂血症など)の合併も多くなります。成人病に対して運動療法が薦められます。若い人であればスポーツジムに通うのもいいでしょうが、高齢になると、なかなか若い人のような運動ができません。このため、「一日30分程度の散歩をしてください」といわれるのですが、この散歩ができなくなる病気が腰部脊柱管狭窄症です。最初は500mほど歩いて跛行が出現していた人が、200mになり、100mになり、そして50mで出現するようになると、散歩すらしようとする意欲がなくなります。そうして、糖尿病の悪化や脳血管障害のために不可逆的な脳の障害や心筋梗塞を起こして、寝たきりとなる方もいます。『歩くこと』は人間が健康を維持するために、最も重要な機能と考えてください。このため、腰部脊柱管狭窄症の治療をおろそかに考えないようにしてください。
マルチスライスCT

保存的治療
- 鎮痛剤、血流改善剤などの薬物療法
- 神経根ブロック、硬膜外ブロックなどペインクリニック的療法
- 安静・牽引・リハビリテーション療法 など
保存的治療で一過性に改善する場合もあります。初期の例では非常に効果的です。しかし、腰部脊柱管狭窄症は加齢に伴い悪化します。保存的治療で改善が少ない場合や進行性に悪化する場合は無意味にブロックや薬物治療を継続しないことが大切です。無意味な保存的治療の継続は歩行・運動能力の減弱した中・高齢者の心肺機能の低下を急速に悪化させ、さらに糖尿病などの合併症の悪化などにより、外科的治療の危険性を増大させる原因となることを肝に命じるべきと考えます。
レーザー治療
当然のことながら全く無効です。
外科的治療
- 顕微鏡的腰椎椎弓形成術
- 低侵襲脊椎固定術 など
腰部脊柱管狭窄症にすべり症を合併していない場合は顕微鏡的腰椎椎弓形成術を選択します。手術技術の進歩は著しく、翌日から歩行が可能です。
〈腰椎すべり症〉を伴った〈腰部脊柱管狭窄症〉について
単純な腰部脊柱管狭窄症では治療は容易なのですが、加齢的変化で椎間関節が破壊されていたり、あるいは無理な姿勢を腰に強要していると腰椎のすべりが出現します。腰椎すべり症とは椎体が前方へずれる状態を言います。腰椎は生理的な前弯(腰椎を横から見ると、腹に向かって前方凸の弓状の姿勢)を有するため、下部の腰椎(第4腰椎や第5腰椎)では力学的に常に前方へずれようとする力が働きます。腰椎すべり症は腰椎分離すべり症と腰椎変性すべり症とに分かれます。加齢に伴って骨がずれていく病気が変性すべり症です。この加齢とともに悪化する腰椎症性変化(年齢的な変化)が基盤となって、年とともに変性が椎間板や椎間関節を破壊して、すべり症が発生すると考えられます。