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脊髄脊椎外科(脊髄脊椎外科治療センター)

脊椎椎間板(せきついついかんばん)ヘルニア

腰椎椎間板ヘルニア

ヘルニア(hernia)とは臓器の一部が本来あるべき腔から逸脱した状態です。つまり、椎間板ヘルニアとは繊維輪(周辺の硬い部分)に亀裂が生じ、髄核(中心部分)が繊維輪を破って飛び出し(膨れて)しまう事を椎間板ヘルニアと言います。飛び出した(膨れた)椎間板が神経などを圧迫する事により、激しい痛みや痺れなどの症状を引き起こすのです。

症状

右下肢痛で発症した、L4/5に発生した腰椎椎間板ヘルニア
多くの場合、脊椎椎体の後方を支持している後縦靱帯が強固なため、やや一方に偏在して存在することが多く、一側の神経根を圧迫して、激しい神経根性の下肢の疼痛、運動麻痺、歩行障害などを生じます。腰痛はあることが多いですが、やはり特徴的な症状は下肢の疼痛です。ひどくなると膀胱直腸障害を来たすこともあります。

治療

保存的治療

  • 鎮痛剤、血流改善剤などの薬物療法
  • 神経根ブロック、硬膜外ブロックなどペインクリニック的療法(症状次第では専門医へ紹介する場合がございます)
  • 安静・牽引・リハビリテーション療法 など

腰椎椎間板ヘルニアの80%は自然治癒します。多くの場合、発症後約2週間以内に保存的治療などで日常生活の支障が少なくなり、MRI画像上70%のヘルニアは3~6ヶ月でヘルニアそのものが消失します。自然に改善することが多いため、わたしたちは保存的治療を中心に行い、腰椎椎間板ヘルニアの手術は積極的には行っていません。通常の髄核が脱出した場合は症状が改善することが多いのですが、中には繊維輪や椎体のそばの軟骨がはがれて脱出したりするとなかなか改善しません。この場合は手術が必要になることがあります。

レーザー治療(当院では行っておりません)

保存的治療で80%の治癒率であったことを考慮するとレーザー治療の有効性は疑問があります。実際のところ、レーザー針を刺入する前の麻酔やレーザー治療後に服用するステロイドなどの効果もあり、無作為試験での有効性は証明されていません。“成功”率は37~75%程度であり、中・高年者はほとんど無効です。保存的治療と大差はないため、日本では保険外治療となっています。

外科的治療

  • 顕微鏡的腰椎椎間板ヘルニア摘出術
  • 内視鏡的腰椎椎間板ヘルニア摘出術
当院では顕微鏡的腰椎椎間板ヘルニア摘出術を選択しています。理由は顕微鏡視下の手術は脊髄脊椎の手術の際に必ず使用しており、なにか思いがけない合併症が手術中に起こっても、顕微鏡手術で、そのまま対応できるからです。また手術時間・術後成績は安定していますので、内視鏡手術は行っていません。外科的治療の一般的合併症として感染、運動麻痺の増悪、硬膜損傷、動脈損傷、肺塞栓、術後硬膜外血腫などあります。当院では手術後に神経合併症を起こしたことがありません。しかし、ヘルニア摘出術が完璧ではありません。再発を起こす可能性があります。一般的には3~19%とされていますが、当院での過去10年間の再発率は2%でした。再発したヘルニアの手術は比較的難しい手術になります。術後の姿勢には注意しましょう。

頚椎椎間板ヘルニア

腰椎椎間板ヘルニアと同様に通常はヘルニアのレベルで神経孔をでる神経を障害しますが、頚椎には腰椎には存在しない脊髄が存在しています。脊髄は中枢神経です。腰椎の中に含まれている馬尾神経(末梢神経)と違って、脊髄は一度障害されるとほとんど回復しません。このため、脊髄から出た後の神経(神経根)を圧迫して症状が出現している場合は保存的な加療を基本としますが、脊髄が圧迫されて症状が出ている場合は速やかな手術治療が必要です。

症状

脊髄の各部分の障害が初発症状となりますので、頚椎症性脊髄症とよく似ています。

運動機能障害

腕の脱力、細かな作業ができなくなったり、肩の挙上ができなくなることもありますし、また下肢の運動障害が出現して、歩行時によくつまづいたりするようになります。進行すれば箸を持てなくなったり、自分ひとりでは歩くことができなくなります。

感覚機能障害

上肢の痛みで発症することが多いです。さらに進行すれば完全に手足のみならず、体中に痛みが出現したり、しびれたりするようになってしまいます。

以前は、このような症状のうち、上肢の症状のみの場合を神経根症、下肢症状がある場合を脊髄症として分けられていました。神経根症の場合は末梢神経ですから、まず最初は保存的治療でいいと思われていました。しかし、MRIが容易に撮像されるようになってから、脊髄が強く圧迫されていても、最初は上肢のみの症状しか出現していない頚椎椎間板ヘルニアがたくさんあることが分かりました。これは、頚椎にある脊髄は中枢神経のため、手に指令を送ったり、受けたりする神経細胞(さいぼう)と足に命令を送ったり、受けたりする神経線維(せんい)で構成されています。この細胞と線維が圧迫で障害される強さに大きな違いがあるため、上肢のみに症状が出現することがあるのです。このため、上肢のみに症状がある場合を分節(segmental)症状、下肢に症状があるものを長経路(long tract)症状と呼ぶようになっています。このため、脊髄に強い圧迫があり、最初は上肢のみの症状(分節症状)であっても、詳しく神経所見をとってみると下肢の異常があったり、次第に下肢の症状(長経路症状)が出現することがあります。私たちは脊髄に強い圧迫があるときは、早めの外科的治療が必要と考えています。

治療

保存的治療

  • 鎮痛剤、血流改善剤などの薬物療法
  • 神経根ブロックなどペインクリニック的療法(症状次第では専門医へ紹介する場合がございます)
  • 安静・牽引・リハビリテーション療法 など
上記のような保存的治療がありますが、脊髄が圧迫を受けている場合は保存的治療ではなく早期の手術治療が必要なことがあります。皮膚や筋肉は再生しても、脊髄の細胞には再生は望めないからです。
こうならないための指標として
 
  • これ以上我慢できない痛みが続く場合
  • 手をむすんだり開いたりグーパーをする。→10秒間で25回が目安。10秒間に20回以下は要注意
  • あごを胸につけた後、ゆっくりと天井を見上げる→背中から足に突き抜ける痛みが走る場合
  • 片足でぴょんぴょん跳ぶ→スムーズにできない

このような場合には手術治療が望まれます。

外科的治療

頚椎前方除圧固定術が基本になります。時に固定を行わずに外側からヘルニアのみを摘出したり、後方からヘルニアを摘出する場合もあります。外科的治療の一般的合併症として感染、運動麻痺の増悪、硬膜損傷、動脈損傷、嚥下障害、食道・気管損傷などありますが、当院ではこれまでに1例も経験したことがありませんので非常に安全な手術方法と考えています。
しかし、前方除圧固定術の最も重要な問題点は固定を行うことで、他の椎間に動きの負担がかかります。この負担が長期的に別の椎間に新たな椎間板ヘルニアが出現したり、動きの負担が背骨の変形(頚椎症)を早めて脊髄が圧迫されることがあります。長期的な報告では前方除圧固定術を受けて10年以上経過した症例の30%程度に脊髄の新たな圧迫が起こることが報告されています。術後の頚部の姿勢には注意が必要です。

症例

33歳 女性
左上肢の痛みで発症し、神経根症として保存的治療が行われていましたが、次第に左下肢の脱力を自覚するようになり、来院されました。来院したときの神経学的所見では、左足だけではなく右足にも軽度の麻痺が出現していました。
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